ボールルームダンスの「ボール」と「ダンス」の違い(投稿記事)

ダンスビュー2003年5月号投稿記事

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ボールルームダンスの「ボール」と「ダンス」の違い


私はこのところ競技ダンスにはまっている50歳代の中年男性です。

12月号の「読者プラザ」で「ボール」が「舞踏会」という意味だという投稿を読ませていただきました。それならば私たちになじみの深いいわゆるダンスパーティーも「ボール」と呼ばれるのでしょうか。

そこで手元にあった「Emily Post's Etiquette」という米国のエチケットの本をひもといて見ました。その本の著者は、米国で50年以上にわたってエチケットの権威として知られたエリザベス・ポストという女性です。その本のBalls and Dancesという項の一部をかいつまんでご紹介します。

それによると現在でもBallsとDancesは「集まってダンスをする社交の場」として両方使われますがそれぞれ異なった性格を持つようです。基本的な違いのひとつはDancesでは参加者は大体同じ年齢層であるのに対し、Ballsはハイスクールの学生から80歳台の方までといったように異なった年齢層が参加することもありうるということ、もうひとつのちがいはDancesの方がより小規模で、飾り付けや飲み物の用意も簡素だと説明しています。ただし Dancesと一口に言っても、この本によると男性はタキシードに黒タイ、女性はロングドレスというDancesからもうすこしくだけたDancesまであるようですが。一方Ballsのほうは、女性はlong ball gownに宝石をつける、男性は正式の場合燕尾服に白タイ、略式ではタキシードに黒タイ、というのがエチケットのようです。
これからすると私たちがダンスパーティーと呼んでいるのはBallsではなくてDance、それも欧米で言うTea DanceとかDinner Danceに分類されるものでしょう。

ところで、なぜ同じ踊りなのにdanceとballと違う言葉がふたつ使われているのでしょうか。

英国のダンスのホームページhttp://www.dancesport.uk.com/ の「モダンボールルームダンスの歴史」によると、「ダンスで使われるBall(ボール)は、ラテン語で「踊る」を意味するballareから来ており、同じ系統の言葉としてはballet(バレー), ballerina(バレリーナ), ballad(バラード)がある。一方野球などのBallはノルウェー地方の古語のbollr(膨らませる)から来ている。」そうです。投稿では「Ball」は古フランス語と紹介されていましたが、フランス語は元々ラテン語起源の言語ですから、古フランス語にもBallあるいはそれと同じ起源を持つ言葉があったのではないかと思います。

実は現代英語はいろいろな言葉が混じっています。ある本によれば日常使用される1000語のうち6割は本来語(古ドイツ語など)、3割がフランス借り入れ語、1割がその他からの借り入れ語と言われています。本当はもっと複雑ですが、簡単に分類すると上のようになります。これだけ借り入れ語が多い理由は現在の英国が昔からいろいろな民族が入れ替わり支配しておりそのつど支配階級の言語が入ってきたことによります。たとえばフランス語が多いのは、1066年にノルマン人による征服がありその後約200年間は英国がフランス語を話す支配階級によって統治されていたためです。それ以降も宗教、学問、公文書にはそれ以前の支配階級の言葉であるラテン語が相変わらず使われていましたが、そのころの宮廷、貴族、法曹など上流階級の唯一の話し言葉はフランス語でした。そのため本来語を話す中産階級にも徐々にフランス語が浸透していったとは言え、一般的にはフランス語は上流階級の言葉、本来語は庶民の言葉としてもっぱら使用されていたわけです。

ここまでは歴史的事実ですが、ここから先は私の推測です。
今でいうBallroom Danceを踊っていたのは上流階級であり、そのためフランス語経由のBallという言葉がもっぱら上流階級で使われていたと思われます。一方Dance は同じ起源を持つ現代ドイツ語の「踊り」を表わす単語(名詞はTanz、動詞はTanzen)からわかるように古ドイツ語系の言葉であり、庶民が使っていたと考えられます。そのためBallsとDancesの両方が生き残ったのではないかというのが私の考えです。

ちなみに、現在世界的に人気を博しているハリーポッターシリーズの第4巻「炎のゴブレット」で主人公が踊る舞踏会は、原文ではThe Yule Ballとなっています。



  • 最終更新:2010-12-31 00:08:31

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