トーンをコントロールする

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ダンスを踊りながら美しいポスチャーを保つためには、適切な筋肉のトーンというのは一定ではいけないと考えています。

ちょっと生体工学に深入りしますが、ご勘弁ください。


人間の感覚系は大きく分けて以下のように皮膚感覚と深部感覚に分けられます。


皮膚感覚

皮膚に受容器がある。深部感覚より反応が遅く時間が経つと鈍感になる。

  • 触覚、圧覚
  • 温度感覚
  • 皮膚痛覚

深部感覚

眼を閉じていても手足の位置やその位置がわかる。これらの感覚を深部感覚と言う。皮膚よりも深部、すなわち皮下、筋、腱、筋膜、骨膜、関節などに受容器がある。

  • 振動感覚
  • 運動感覚
    位置感 - 視覚や皮膚感覚がなくても、四肢や身体部位の相対位置関係がわかる
    運動感 - 関節が動かされるとその動きがわかる
    抵抗感 - 物体を押す時の筋の張力からその物体の硬さがわかる
    重量感 - 物体を持つ時要する力からその物体の重さがわかる
  • 深部痛覚
  • 筋疲労感


これらの感覚のうち、ダンスに重要な役割を果たしているのは、深部感覚の一つである運動感覚です。

各部の筋肉の力の入れ方、言い換えれば筋肉のトーンの強さは重要ですが、本当に大事なのは運動感覚からの信号とそれによってトーンをコントロールすることです。

エアコンにたとえるならば、運動感覚が室温センサーで、筋肉が冷却機ということになります。

エアコンは設定温度と室温センサーの温度を比較して室温が高ければ高いほど冷却機を目一杯動かし、室温が設定温度に近づくにつれて冷却機の能力を落として行きます。また外気温が高くなって室温が上がり始めると冷却機の能力を上げて室温を元に戻すように働きます。

制御工学では、このような働きをネガティヴフィードバック制御と言います。


ホールドで必要な力も、この考え方で説明することが出来ます。

まず位置感を使って、練習で覚えこんだ形通りホールドしますが、この段階では自分の形を維持するだけの最低限の力で済みます。

そこからリーダーはたとえば前進しようとしますが、パートナーがいますので、そこからわずかながら抵抗を受け、位置感と運動感から、そのままでは自分の形を維持できないことを感じ取ります。

そのため、ネガティヴフィードバック制御により、上記の最低限の力より若干大きい力を加え自分の形を維持しながら前進して行きます。

この力はパートナーの動きが自分の動きに同期するまで(この例では自分の速度に合わせて後退してくれるまで)加える必要があります。

一旦同期すると、その後は最初の自分の形を維持するに必要な力で足ります。

次に方向を変えたり、ターンしようとする場合、やはりパートナーが自分の動きに同期するまでは若干力を加える必要がありますが、同期した後は、最初の自分の形を維持するに必要な力で足ります。

パートナーの場合も、基本的には同じで、リーダーの動きに同期するまでは若干力を入れる必要がありますが、同期した後は、最初の自分の形を維持するに必要な力で足ります。

これがホールドにおけるフィードバック制御の説明です。

水を張ったコップを乗せたお盆を運ぶ場合も、無意識にこのようなフィードバック制御をしているはずです。

しかし、この説明だけなら、ホールドを固めても同じことができると思うリーダーがいるかも知れません。

ところがそうしてはいけない理由があるのです。

長くなりますので、端折りますが、簡単に言うと、筋肉のトーンを強くしすぎると、いわば硬い鎧を着たようなもので、深部感覚器まで到達する外力が少なくなり、微妙で繊細なフィードバック制御ができなくなるからです。

耳栓をして合奏するようなものだといってもいいかもしれません。

いずれにせよ、そういう男子と踊る女子は悲劇ですね。せめてその男子が音楽にマッチした動きをしてくれるよう祈るばかりです(笑い)。

  • 最終更新:2017-05-14 15:51:00

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